第6話 宮中晩餐会と出前の御用達(2)

2007.07.20

天上人達と庶民は雲泥の境地でありました。

 晩餐会が終わるまではここを出られないと思ったら、朦朧とした頭が最後のブドウ糖をエネルギーに換えて閃いた。秘書官らしき人物の二段重ねは、おそらく宮内庁御用達、伊豆栄だろうと目星をつけた。皇室皇族は別にして、宮内庁職員だって残業や徹夜もあるだろう。人間は親の葬式でも腹が空く、だから御用達の出前もあるはずだ。普段より冴えているなと、さっそく近くに居た警備担当者に、伊豆栄か江戸橋の繁乃鮨の出前の要請をした。本能の切なる要求はどんな場合でも、ストレート過ぎて他人から見れば尋常ではない。鬼気迫る風だが礼服は着用しているなと、当惑しながら無線機を取り上げた。無線のやり取りがずいぶんと長かった。

 後日談だが、皇居内で飢餓に直面した人間の取り扱いに、警備当局や宮内庁では俄かに判断ができず、外務省にもタライが回った。もっとも儀典のプロトコルにこんなケータリングのケースはある訳もなく、遂に皇居脇のパレスホテルに待機していた件の役員にまで知れ渡った。その後しばらく「皇居で出前を要求した男」(田舎者)と何やらハイジャック犯か、右翼か左翼のパフォーマンスなみに、ずいぶんと酒の肴にされた。もっとも腹の話だからテーマによっては胴体として、祖国やアジアの為なら両翼の皆様と、仲良くお手々を繋いでやるも妙案かも知れないな。

 結局、世紀のグットアイデアの出前は成らず、皇宮警察の黒塗りパトカーの丁重な先導で、長い皇居の地下トンネルを抜け大手門から街に出た。豪邸に迷い込んだ野良犬のように、見慣れた街並を見てやっと我に返った思いだった。方々に手間を取らせ、のんびり飯など喰っている場合じゃないよなと、多いに反省をしながら立ち食いそば同様に食事を終え、早々に皇居に戻った。同じエリアの同じ時間でも天上人達と庶民は雲泥の境地でありました。

 京橋の藪伊豆で蕎麦を急いで江戸っ子風に喉に流し、山葵の辛さにむせ返って涙と鼻水を出している頃、晩餐会では江澤民国家主席のスピーチと、着用の中山服がマスコミの耳目を集めていた。ご記憶の方は多いと思うので、内容や当時の反響は割愛する。ここら辺から両国がギクシャクと、為始めた言う話もある。

(続く)