第9話 豊葦原の「瑞穂の国」に、ひとめぼれ(1)
ただ単に、ケチの付いた赤城農相へのフォローだったと思いたい。
参院選の講演会で、麻生外相は中国への日本米輸出の仕組みと効果を「アルツハイマーでも分かる」の例えで物議をかもした。失言の部類だろうが大半の日本人は文脈が分かるので、基本的に大きな問題にはならなかった。野党もマスコミも伯仲選挙で脳細胞は短絡に硬直し、枝葉に目を奪われて重要な事を忘れた。私も「日本の高価な米でも、美味ければ中国の富裕層などにも売れるから自信を持って」と言ったと聞いて、ナント脳天気な話だと理解が出来ず、アルツハイマーの末期状態に陥った。
今回4年ぶりに中国に輸出した量は、国内生産約900万トンのうち、わずか24トンでサンプル並みの量だ。中国在住日本人や、高級日本料理店だけでもすぐに消費できる量だろう。アキバオタクじゃないけれど、麻生さんに好感する所もあるので、選挙中の外相が持ち出したノーテンキな発言の趣旨は、ただ単に、ケチの付いた赤城農相へのフォローだったと思いたい。
ところで読者諸氏、日本の20倍近い世界1の生産量を誇る、安価な中国産米を相手に日本の値段で、アジアや中国に売れると思いますか。そんな馬鹿な?でしょう。
中国は西の新疆ウイグルからロシア国境に接する内モンゴルまで、米飯以外の麺やパン、饅頭、餃子など言わば小麦を主食にする民族も多い。それでも昨今は麺や米を主食にするのは、主に打工などの肉体労働者や農民で、洗面器のような丼に山盛りの米飯や麺にお菜が乗った定番メニューだ。貧困層が多いこの国は安い米を大量に消費する。しかし、高価な日本米のターゲットは富裕層だそうだ。
でもね、彼らの主食はもう無いとも言えるのだ。米飯摂取はカロリーベースでいえば1割もないかも知れないな。彼らの食卓は麺やパン、サラダ、果物、乳製品、肉類、魚介など様々な食材が飾る。今では朝の粥も健康を考えて、赤米や雑穀粥が流行りだ。街のレストランも同じ様に、米飯は遠の昔に主食の座を降りていて、注文しても添え物扱いで、湯呑み茶碗程の量しか出さず、値段も無いに等しくオマケ扱いだ。
それでも百歩譲って、世界主流の長粒インディカ米と違い、粘り気のある美味しい日本米だから売れると言う事なのだろうか。中国人も旨いと感じる日本米は、中国長江流域に発生した短粒米のジャポニカ種だ。だからだと思うが、日中国交回復後に来日した中国の研究者達が、故郷で日本種の栽培法を取り入れ成果を挙げた。吉林省、黒竜江省など東北地域で栽培され、今では中国育ち「コシヒカリ」「ひとめぼれ」などの稲穂が、たわわに大地を黄金色に染めている。この地域のジャポニカ米の生産量だけで、とっくに日本の全生産量を超えている筈だ。
何度となく食べた事が有るが、味覚音痴の私には、日本のコメと変わらない食感や味がする。米の磨ぎ方や、パナソニックのIH炊飯器なんぞを使えば、味にうるさい日本人グルマンでも区別はつかないと思うけど。
喩えで云えば、中国企業がトヨタ自動車と合弁や提携で、現地生産したカローラがトヨタマークを付け、品質が保証されその上価格が2、3割程度だとしたら、中国人ならいくら裕福でも日本製を輸入しないだろう。
(続く)
