第10話 朝青龍よ、早くモンゴルに帰れ!
どんなに泣き叫んでも故郷の大地は、君の声なんか子羊と同じに受け入れるさ。
日曜なので昼飯の後で久しぶりにTVのワイドショーを見た。番組は朝青龍を取り上げていた。前からガタガタとしているなと少しは気になっていた。国技だけど突っ込む程までの興味も情報も暇も無い。今日は散髪に行く予定だが、暑いので夕方にしよう。それまで2時間ほど有るのでブログを書いてみるかな。
まだモンゴルには行った事はないが、中国領内モンゴル自治区は何度も行った。今年の冬にロシアとの国境で始めて見たチンギス・ハーンの祖国は、国家が引いた縄張りなんか羊も気にしていないよと、たおやかに白い絹のような雪をうっすらと纏い、スターダストがキラキラと煌めいていた。
どうした朝青龍。17歳で故郷を遠く離れ、横綱までの修行は大変だったよな。よくがんばってくれたね。熱いファンではないのに、偉そうに言うけど本当に感謝をするよ。ありがとう。VTRで観たが故佐渡ヶ嶽親方も言っていたね。わざわざ出稽古に来てくれる横綱はそれまでは居なかったと。年長者の親方の身体も気使ってくれたと。横綱経験者の親方の話だから君は本物だよ。バッシングの嵐だが、君の笑顔を見たい日本人は沢山居るよ。
格闘技の修行は心身共に過酷で、道という名が付けば尚更だ。極真空手の大山総裁が亡くなって、お家騒動の真最中だった頃だ。池袋の極真会館に内弟子になった少林寺拳法の達人で、中国人の若い武道家を思い出した。本部道場や先輩の指導に辛くなり、人を頼って相談に来た。聞けば修行は続けたいがイジメの様な修行が辛い、どこか他を紹介して欲しいと言う。当時本部はお家騒動の真最中だったが、ロシアなどへ頻繁に普及に奔走していた誠実な人格で、求道一途な幹部の西田幸夫さん(現国際武道連盟極真空手清武会代表)に、無理にお願いをして預けた。
事を知った松井章圭新館長は、騒動に敏感で組織と何の利害も無い私に詰問をされた。今は話せば色々とご迷惑が掛かると、その旨を話して詰問を無視した。100人組手と言う偉業を成し遂げた人物の言葉と思えず、激論の末喧嘩別れの様だった。その後、件の中国人青年武道家は、預け先から何も言わず忽然と姿を消した。
西田道場の心優しい、谷川師範の指導も耐えられなかった様だった。世界中の青年に武道を広めている、西田さんは最初から見抜いていた。事情のあるレアなケースだろうが、現代中国人には、大きな報酬が確約されない辛い修行は無理なのかと、しばらく頭を離れなかった。だから言葉も解らぬままモンゴルから来た、17歳の若者の成功が嬉しかった。
さて、ずいぶん話が脇にそれた。粗いが感想を言おう。横綱の病の原因の一つは薬だ。始めに相談したとされる形成外科医から、抗うつ剤の処方受けたのではないのかな。別に医師が悪いのではない。僕も横綱とはとても比べ物にもならないが、少し苦しかった経験があるんだ。まして角界の明日をも知れぬ、実力の世界の頂点に立てばなおさらだ。品格など言われても先達が背中で教えるものだしね。
順風万帆の人だって、手のひら位の悩みはあるだろうけど。僕の場合は一抱えぐらいの悩みだと感じて、何ヶ月もろくに睡眠も取れなかった。どんな薬も絶対と言うほどに飲まない方だが、酒のせいか市販の睡眠薬は何故か効かなかった。人目を避けて少し離れた小さなクリニックを探した。事情を話すとドクターはそれではと、睡眠薬など1週間分の薬を処方した。4、5日間は殆ど水を飲む他は寝ていたような気がする。これでは仕事が出来ないと電話で訴えると、別の処方が出た。
デプロメール50、ソラナックス0.4mg、アモキサンカプセル10mgなどだ。妄想が出て音にも敏感になり睡眠も僅かなのに元気が出た。裏打ちのないような自信も感じた。自分とは違うなと本能的に危ないと思い、医師に無断で服用を止めた。後で知ったが、急に止めるとリバウンドが半端じゃないと。本当に辛く苦しかったが周りの理解が有ったので断薬を通し続けられた。とりあえず自分の意思で切り抜けたのが嬉しかった。それでも5,6カ月は掛かった。今思い出してもゾッとする。
横綱は安易に抗うつ剤を、それも年齢や体格などから多めに処方されたのでは無いのかな。だから鍛えた身体と直結する脳が過剰反応し、セレトニンなどの神経伝達物質のバランスが崩れたのかも知れない。医師が慎重に横綱への愛情と尊敬の心で接すれば、DVも有ったといわれる横綱の心の疲れも癒されたかもしれないな。まあ国民はそれをも克服出来る国技の横綱を望んでいるのだろうけど。
モンゴルの冬は早いぞ!横綱、もう天高き秋空だ、早く帰れ。ロシアから雪雲が来る前に、太陽が眩しいモンゴルの碧き草原で大の字になって休め。ダグワドルジの子供になって馬に乗れ。故郷に帰って一切の薬を断ってモンゴルの自然と家族と友と遊べ。どんなに泣き叫んでも故郷の大地は、君の声なんか子羊と同じに受け入れるさ。
そうでないと君の雄姿がもう観られない様な気がするんだ。まだ26歳だろ。四股さえ十分に踏んでいればそれほど衰えないよ。1,2年は待つよ。鍛えた心身だから回復する力も驚異的だろう。横綱、焦るなよ。旧正月やナーダムの祭りを楽しんでから戻ってもいいよ。但し、強い酒は控えて馬乳酒にすれば、もっと早く綱を締められるはずだ。オッサンの経験だ。
もし、ウランバートルに帰ったら、浴衣の着流しと雪駄のニコニコ顔で、再び日本の土を踏んでくれ。相撲が取れなくなってもいいと思う。横綱の地位より君の人生が良くなる方が大事だ。
今回の診断に大きな疑問を感じている訳ではないが、やり切れない気がするのは正直な気持ちだ。精神関連疾患は若い人や、有能な人でも罹る事が多い病だ。まず十分なヒヤリングありきが大事な分野なのに、精神科医の診療報酬は投薬が主な様で、ヒャリング行為を国や国民は高く評価しない。薬漬けの患者の生活は悲惨だと思う。極論だろうが薬を投与しないで改善したら、1年分の薬代ぐらいの報酬が妥当だ。製薬会社以外は全てハッピーだろう。
(完)
